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神戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)21号 判決

兵庫県西宮市二見町一三番地二一-二〇五号

原告

富田和雄

右訴訟代理人弁護士

明尾寛

同市江上町三番三五号

被告

西宮税務署長

小幡隆

右指定代理人

一志泰滋

西峰邦男

八木源二

志水哲雄

熊本義城

岡本雅男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五四年七月一六日付でなした昭和五三年分所得税の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五三年一〇月一三日、原告所有の大阪市住之江区浜口東二丁目一番四四宅地一〇六・三〇平方メートル(以下、本件土地という。)を訴外中村一美に代金一六〇〇万円で売却し、譲渡所得を得たので、昭和五三年分所得税の確定申告に当り、右は租税特別措置法(以下、措置法という。)第三五条第一項を適用すべき場合に該当するとして、別表一の〈1〉申告欄記載のとおり、右譲渡所得につき所定の特別控除をして分離長期譲渡所得を零円とし、その他の所得金額と併せて申告納税額を五万一九〇〇円として確定申告書を提出した。

2  被告は、原告の更正の請求に対し、昭和五四年六月二日、別表一の〈2〉更正の請求に基づく更正欄記載のとおり、納付すべき税額を二、七〇〇円とする更正を行なった。

3  昭和五四年七月一六日、被告は、前記本件土地の中村一美への譲渡は措置法第三五条第一項の居住用財産の譲渡に該当しないとの理由で、別表一の〈3〉再更正欄記載のとおり、納付すべき税額を二七一万四三〇〇円とする再更正(以下、本件再更正という。)及びこれを前提とする過少申告加算税額一三万五五〇〇円とする賦課決定(以下、本件賦課決定という。)をなした。

4  そこで、原告は、被告に対し、昭和五四年九月一三日、異議申立をし、同年一一月六日、被告から棄却する旨決定されたので、同月二九日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、昭和五五年八月六日、同所長からこれを棄却する旨の裁決をされ、同月八日、右裁決書の謄本が原告に送達された。

5  しかしながら、本件再更正には、次に述べるとおり、本件土地の中村一美への譲渡については措置法第三五条第一項が適用されるべきであるのにその適用を否定した違法がある。

すなわち、

(一) 原告は、昭和四五年三月頃まで、原告の父母、妻子と共に本件土地及びそれに隣接する大阪市住之江区浜口東二丁目一番三八の宅地四八・〇七平方メートル(以下、隣接宅地という。なお、同所に存する関係土地を、以下、地番のみで表示する。)を併せた一番一宅地一三一・九九平方メートル上に建築された一棟の建物(以下、本件旧建物という。)に居住していたが、昭和四五年三月、勤務先の命令により東京に転勤し、以後、本件旧建物には原告の父母が居住していた。

(二) 昭和四七年一月五日、原告の父富田吉三郎が死亡し、原告は、父の所有であった一番一土地及び本件旧建物を母富田サヨと共に相続した。

(三) 原告と母富田サヨは、その後、本件旧建物の一部、隣接宅地上の建物部分を中村一美に賃貸し、その残余を富田サヨの居住の用に供していた。

(四) 原告は、母富田サヨが原告との同居を希望したので、勤務先に希望を出して、昭和四八年二月、大阪に転勤となったがその当時、隣接宅地は南海本線付属街路一、二号線工事用地として大阪市に買い取られることとなり、隣接宅地を売却するには同地上の本件旧建物部分を取壊さなければならず、そのため、結局は本件建物全部を取壊すことが必要となった。そこで、右買取り時に、残された本件土地上に居住用の建物を新築して居住すべく、それまでの間は、さしあたり大阪府高槻市芝生町二〇二番二号にある勤務先の社宅を賃借していた。

(五) 原告は、昭和四九年三月、富田サヨが病弱となったため己むを得ず同人を右社宅に引き取り、本件旧建物中同人が居住していた部分を訴外高木博茂に、倉庫替りとして建物取壊しに至るまでの間使用させることとした。

(六) 昭和四九年六月二四日、富田サヨが死亡し、これにより、原告は、前記一番一土地及び本件旧建物について富田サヨの持分を相続し、結局、右各物件を全部相続取得した。

(七) その後、原告は、本件旧建物に居住することを考慮したが、前記のように本件旧建物は近々取壊し予定であるうえ、大阪市の買取交渉のある時期に新たに居住を開始すれば、立退き補償金目当てに居坐っている等悪評がたてられることを嫌い、大阪市の買取り後に本件土地上に居住用建物を新築して居住することを予定していた。

(八) 原告には、右当時、他に自己所有の居住用財産はない。

(九) 原告に、昭和五三年一一月二三日、その居住の用に供する家屋を取得し、現にこれに居住している。

以上に述べた(一)ないし(九)の事実を総合すると、大阪市の右買取りがなければ原告は当然本件土地に居住していたものであるから、本件土地は、居住用家屋の敷地に供する意図の下に所有していた土地と認められるべきであり、したがって、措置法第三五条第一項の「個人が居住の用に供する家屋……の敷地の用に供されている土地」に該当するというべきである。

6  よって、原告は被告に対し本件再更正及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1ないし4の事実は認める。

2  同5の(一)の事実は知らない。同(二)の事実は認める。同(三)の事実は知らない。同(四)の事実のうち、隣接宅地が南海本線付属街路一、二号線工事用地として大阪市に買取られた事実並びに原告が昭和五三年一〇月一三日当時、社宅に居住していた事実は認めるが、その余の事実は知らない。同(五)の事実は知らない。同(六)の事実は認める。同(七)ないし(九)の事実はいずれも知らない。

3  同5の、原告の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件更正に至る経緯

(一) 原告は、父富田吉三郎が昭和二二年一一月六日売買により取得した一番一土地及び本件旧建物を、本件旧建物から転出した後である昭和四七年一月五日同人の死亡により、母富田サヨと共同相続し、昭和四九年六月二四日同人の死亡により相続して全部取得し、また、一番四土地七六・九二平方メートルを、昭和二七年三月一五日、売買により、更に、一番一〇土地七三・四八平方メートル及び同地上の建物を、昭和二五年七月三日、売買により取得した。したがって、原告は、本件旧建物に所有者としては一度も居住したことがない。

(二) 原告は、昭和五三年七月一日、一番一土地、一番四土地及び一番一〇土地のうち、別表三の〈2〉欄記載の部分を大阪市によって南海本線付属街路一、二号線工事用地として買収され(以下、本件買所という。)、その補償金として一六〇九万一九二七円を受領し、そのうち家賃減収補償等四九万五〇〇〇円を控除した一五五九万六九二七円について措置法(昭和五〇年法律一六号による改正後のもの)第三三条の四の適用を選択し、その後、別表三の〈3〉欄記載の本件買収残地のうち一番三七、一番三九両土地を同〈4〉欄記載のとおり合筆後の一番三七土地から同〈5〉欄記載のとおり分筆された本件土地を昭和五三年一〇月一三日、中村一美に対し一六〇〇万円で譲渡し、本件土地が居住用資産の譲渡に該当するとして措置法(昭和五三年法律第一一号による改正後のもの)第三五条の適用を選択し、それぞれ所得金額を零とした、別表一の〈1〉欄記載のとおりの確定申告書を提出した。

(三) その後、被告は、原告が請求の原因2及び3で主張しているとおり更正、本件再更正、本件賦課決定を行なったが、右更正は原告の昭和五四年五月一六日付更正の請求(所得控除額の増額)に基づくものであり、本件再更正及び本件賦課決定における分離長期譲渡所得の計算は別表二のとおりである。

2  本件再更正及び本件賦課決定の適法性

本件土地は居住の用に供されていたものではなく、したがって、原告がこれを中村一美に売却した行為により生じた譲渡所得は措置法第三五条第一項に定める特別控除の要件に該当しないことが明らかである。

すなわち、

(一) 措置法第三五条一項に規定する「個人が居住の用に供している家屋」とは、個人が生活の本拠として日常起居している家屋をいうと解すべきである。

しかるに、本件買収時において、本件土地のうち、別表三の〈3〉欄記載の一番三七地部分の上には本件旧建物が存在し、同欄記載の一番三九土地部分の上には高木六助が建物を建築し居住していたが、原告が本件旧建物を前記のとおり相続によって取得したのは、原告が本件旧建物から転出した後であり、その後、現在に至るも本件旧建物に居住した事実はなく原告が本件土地を中村一美に譲渡した昭和五三年一〇月一三日には西宮市甲子園口四丁目一二番一二の二〇三号の社宅に居住してこれを生活の本拠としていたのであるから、本件土地の譲渡は同条項に該当しない。

(二) また、措置法通達(昭和五三年五月三一日改正後のもの)三五-三によれば、「所有者が従来その所有者としてその居住の用に供していた家屋を、その用に供さなくなった日以後引続きその扶養している親族の居住の用に供しているときはその扶養親族が居住しなくなってから一年以内に譲渡した時」は、措置法第三五条第一項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取扱う旨定めている。

しかしながら、原告は所有者として本件旧建物に居住したことはなく、また、原告の扶養親族である母富田サヨが居住していたもの昭和四九年二月頃までであり、したがって、中村一美に対する本件土地の譲渡は、その四年以上経過した後のことであるから、右通達にも該当しない。

(三) 原告は、措置法第三五条第一項を適用すべき理由として、本件土地譲渡時においては、他に自己所有の居住用財産がなく、本件買収がなければ当然本件旧建物に居住していたものである等の事情に照らせば、本件土地は、居住用家屋の敷地に供する意図の下に所有していた土地と認められ、措置法第三五条第一項の「個人が居住の用に供する家屋……の敷地の用に供されている土地」に該当すると主張する。

しかしながら、同条の規定は、居住の用に供している資産を譲渡した場合という要件を掲げ、その例外として、居住の用に供されなくなったものの譲渡についても、その供されなくなった日から三年を経過する日の属する年の一二月三一日までの間に譲渡された場合に限り特別控除を認めているのである。これは、現に居住していた資産を譲渡した場合には、居住用代替資産を取得するのが通常であるから、その譲渡については課税を軽減するのが妥当であるからほかならない。それ故、「居住の用に供している」という要件は、厳格に解さなければならないのである。また、これは、同法施行令二三条前段かっこ書きの「当該家屋のうちにその居住用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。」との規定からも十分窺えるところである。

したがって、措置法三五条一項の規定は、居住の用に供していない不動産については、たとえ公共事業用地として地方公共団体の買取りが予想されるため居住せず、また、将来居住用家屋の敷地に供する意図で所有していた土地であったとしても実際に居住していなかった以上適用すべきものではない。措置法は、税負担の特例を定めたものであり、同法に規定する負担軽減のための要件はたやすく拡張解釈すべきではなく、原告の主張は失当である。

3  したがって、本件再更正及び本件賦課決定には違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1の事実はすべて認める。

2  同2の(一)の事実中、本件買収時に別表三の〈3〉欄記載の、一番三七土地部分上に本件旧建物が存在し、一番三九土地部分上に高木六助が建物を建てて居住していたこと、及び、昭和五三年一〇月一三日当時原告が西宮市甲子園口にある社宅に居住していたこと、並びに、同(二)の通達が存することは認める。同2の主張はすべて争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証

2  原告本人

3  乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証ないし第三号証

2  甲第一号証の成立は認める。第二号証の成立は知らない。

理由

一  請求の原因1ないし4の事実及び被告の主張1の事実は当事者間に争いがない(請求の原因5の(二)及び(六)の事実並びに同(四)の事実中当事者間に争いのない事実は全て被告の主張1の事実中に含まれている)。

二  そこで、原告から中村一美への本件土地の譲渡について、措置法第三五条第一項の適用があるか否かについて検討する。

1  措置法第三五条第一項は、個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるもの、若しくは当該家屋とともにその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利(以下、居住用財産という。)を譲渡した場合の譲渡所得の計算にあたり特別控除を認めているが、その趣旨は、居住用財産を譲渡した場合には、これに代替する新たな居住用財産を取得しなければならなくなるのが通常であることを考慮して、右譲渡による税負担を軽減してその取得を容易ならしめようとするところにあるものと解される。しかして、措置法第三五条一項に基づく政令である措置法施行令第二三条第一項は「個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。以下、この項について同じ。)とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする」と規定してその適用範囲を限定している。右らの規定の趣旨にかんがみれば、措置法第三五条第一項の規定は、本来、生活の本拠として現実に居住の用に供している家屋が譲渡された場合につき、特例を定めたものであると解される。

もっとも、措置法第三五条の規定は昭和五三年法律第一一号により改正され、当該家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった場合でも、居住用財産を、当該家屋が「当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後三年を経過する日の属する年の一二月三一日までの間に」譲渡した場合には、同条の特別控除の対象とすることとされた。そして、昭和五三年五月三一日改正後の措置法通達三五-三は、「所有者が従来その所有者としてその居住の用に供していた家屋を、その用に供さなくなった日以後引続きその扶養している親族の居住の用に供しているときは、その扶養親族が居住しなくなってから一年以内に譲渡したとき」は、措置法第三五条第一項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取扱うこととしている(右通達が存することは当事者間に争いがない。)。

右法改正は、サラリーマンが転勤に伴ない居住用財産を空家にしたり貸しつけたりする場合が多々見られる等、不動産取引の実情にかんがみ、譲渡時まで当該家屋に現実に居住することが事実上困難な場合も十分予測されるところから、実情に即するよう、特別控除の対象となる範囲を拡げるとともに、そうした場合における特別措置の適用の限界を明らかにしたものであると解される。

2  ところで、前記当事者間に争いのない事実によれば、原告は、昭和四七年一月五日父富田吉三郎の死亡、昭和四九年六月二四日母富田サヨの死亡により、本件旧建物の単独所有者となったが、以後一度も本件旧建物に居住したことはないところ、それから四年の余を経過した昭和五三年一〇月一三日に本件土地を中村一美に譲渡しているのであるから、右本件土地の譲渡は、措置法第三五条第一項に定める居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用を受ける場合に該当しないことが明らかである。

3  原告は、本件買収がなければ当然本件土地に居住していたものであるから、本件土地は居住用家屋の敷地に供する意図のもとに所有していた土地と認められるべきであり、措置法第三五条第一項の「個人が居住の用に供する家屋……の敷地の用に供されている土地」に該当すると主張する。

そこで、検討するに、成立に争いのない乙第二、第三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証及び原告本人の結果に前記当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨を併せると、次の事実が認められる。

(一)  原告(大東京火災保険株式会社勤務)は、昭和四五年三月頃まで、父母及び妻子とともに本件旧建物(一階、六畳四間、二階、四畳半三間、三畳一間)に居住し、同人らを扶養していたが、その頃、東京転勤となり、必要な家財道具以外は本件旧建物に残したまま上京した。以後は、原告の父母が本件旧建物に居住し、その生計は原告の収入によっていた。

(二)  父富田吉三郎が昭和四七年一月五日死亡した後は、原告らは、本件旧建物のうち一番一土地ののちに買収された部分上に存する部分の南側六畳間、炊事場等の部分を中村一美に賃貸し、その余を富田サヨの居住の用に供していた。

(三)  原告は、同居したいという母富田サヨの希望もあって、勤務先に大阪への転勤希望を申し出、昭和四八年二月頃、再び大阪に転勤となったが、その後も本件旧建物には居住せず、大阪府高槻市芝生町二〇二号の勤務先の社宅を賃借してこれに居住していた。

大阪市による南海本線付属街路一二号線工事用地の買収の話は、既に昭和四七年頃から出ており昭和四八年頃には、本件土地の北方、玉出寄りの土地につき大阪市との間に具体的な買収交渉もなされていて、原告としては、当時は、本件買収後に、本件旧建物の残存部分を取壊し、新たに新居を建築して居住するつもりであった。

(四)  富田サヨは、昭和四六年頃から脳軟化症で南大阪病院に入院して富田吉三郎の看病を受けており同人の死亡後は、病院との間を行つたり来たりして、本件旧建物に居住しているという状態であったが、昭和四九年三月頃に至り、さらに病状が悪化したため、原告は、富田サヨを右社宅に引きとった。そして、同人が居住していた本件旧建物のうち一番一土地ののちに買収された部分上に存する部分の北側六畳間等を、その取壊しに至るまでの間、高木博茂に物置用として貸与した。

(五)  原告は、昭和四九年六月二四日富田サヨ死亡後も、本件旧建物に居住しなかった。そして、昭和五〇年三月には、貸主の都合により高槻市所在の社宅を出るようにとの勤務先の指示により、西宮市甲子園口四丁目一二番一二-二〇三号の社宅に移転している。

(六)  原告は、昭和四八年頃から中村一美が本件土地の買受を申入れてきていたこともあって、本件買収前には同人に売却する意図を有し、自らが本件土地上に家屋を新築して居住することを断念していた。

(七)  昭和五三年七月一日、本件買収が行なわれ、その直後に、原告は、本件旧建物の残存部分を取壊し、同年一〇月一三日、中村一美に代金一六〇〇万円で本件土地を譲渡した。そして、原告自らは同年七月二八日、肩書住所地所在のマンション(専有部分床面積九五・六四平方メートル、同日手附金二五〇万円、引渡予定日同年九月一五日)代金二五四〇万円で購入し、右中村一美からの代金を右購入代金に充て、昭和五四年四月より入居して居住している。

(八)  なお、本件旧建物及びその敷地等並びに買替えたマンション以外には、原告は、一切居住用の土地建物を所有していない。

(九)  原告本人は、昭和四八年二月に本件旧建物に母と同居しなかった理由として、近隣の土地のことではあるけれども、既に買収の話が大阪市との間で進行しており、したがって、本件旧建物の敷地もやがて一部が買収されることがわかっている、というような時点で、無理にそこに居住して高額の立退料を要求するなどというようなことはしたくないという気持で、会社の事情もあって、社宅に借家住いをすることにした、旨、供述している。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

おもうに、措置法第三五条第一項は、譲渡所得の特別控除という租税負担の特例を定めた規定であって、その解釈、適用にあたっては、厳格性及び明確性が要請されるものというべく、その要件をたやすく拡張解釈すべきではない。右認定事実によれば、昭和四八年二月以降原告が本件旧建物に居住しなかったについては、本件買収の話が進行中であったことが一つの理由となっていることは否めないところであるけれども、さりとて、原告において本件旧建物に居住しようとしてもそれが理由となってこれに居住することができなかったというべき程の状況であったともうかがわれないのであって、さきに1で述べた昭和五三年法律第一一号による改正の趣旨をもあわせ考えれば、本件買収の話が進行していたという特殊事情及び原告が他に居住用財産を所有していなかったことを考慮しても、本件土地の譲渡につき措置法第三五条第一項の適用を認めることはできないというべきである。

三  本件土地譲渡による譲渡価額、必要経費、譲渡所得が別表二のとおりであり、また原告の昭和五三年分の不動産所得、給与所得、各所得控除額等が別表一のとおりであることは当事者間に争いがなく、これを基礎として計算すると別表一の〈3〉欄のとおりとなるから、本件更正及び本件賦課決定には違法はない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 松本克己 裁判官 鳥羽耕一)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三 本件物件の分筆等の状況

〈省略〉

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